南西フランスからボンジュール 

耳の聞こえないルシル塚本夏子が、聞こえる世界と聞こえない世界の境界線を溶かす挑戦をつづります。

観光局主催の市内ツアー

今日は朝からスッキリした青空が広がる、良い天気でした。
トゥールーズ市のツーリスト・インフォマーションが企画した
「市内の珍しいものを見るフランス手話ガイドツアー」に午後から参加してきました。
観光局へ約束の時間に向かうと、すでに20人くらいの聾者が集まっていました。

この町に住むのも長くなりましたが、
きちんとガイドをつけながら街を回ることは初めてだったので
新しい発見を楽しみにしていました。

プロのガイドにまず案内されたのは、
何十回となく通り過ぎたトゥールーズの目抜き通りの「アルザス・ロレーヌ通り」。
そこの53番地の白いオスマン調の建物の時計は、何か違っています。
よく見ると、24時間表示。
1日に一周するので時計の動きもゆっくりです。

 


続いて通りを進むと24番地のアールデコ調の目を引く建物の前へ。





今はオレンジ社というフランスの主要な電気通信事業のトゥールーズ支店になっていますが、
昔は何の建物だったか?とのガイドさんの質問に
「香水の店」「なぜ香水?」「女性がメインに描かれているから」
「バー」「レストラン」「百貨店」「新聞社」などなどツアー客から次々と答えが上がり、
「正解は新聞社」

確かに女性の髪型に、スポーツ、アート、政治、などの文字があるのが見えます。

デペッシュ・デュ・ミディという地方日刊紙の旧商業ホールなのだそうです。

続いて、キャピトル広場へ。

キャピトルの正門の横にある街灯の鐘。



これは何のためにあるのでしょう?

キャピトルの建物のためではなく、広場のためですとガイドさんがヒントを出します。

答えはキャピトル広場で開かれたマルシェの終了時間を意味し、

浮浪者が市場の残り物にありつくことができるという合図なのだそうです。

鐘 cloche の由来は、だからclochard(浮浪者)からきたのですよとのガイドさんの話に、みんなが「へぇー」「なるほど」と一斉に頷きました。

トゥールーズの人々の歴史を辿った29枚の絵画を見たり、

 

「星の王子さま」の著者で飛行士であったサン・テグジュペリの宿泊した5つ星ホテルル・グラン・バルコン、

サルバトーレ・ダリの作品「サンチアゴ・エル・グランデ」は

彼と親交のあったトゥールーズ出身の写真家ジャン・デューサイドが撮ったジャコバン修道院の椰子の木と呼ばれる放射線状に伸びる天井画に酷似しているエピソードなど、とても興味深い話がたくさんありました。

 

境界線を溶かす試み

スペインのバルセロナには、「Mescladis」というレストランがあって
さまざまな「ごちゃまぜ」な料理が、提供されているのだそうです。
でも単にレストランとして料理を楽しむ場なだけでなく、
音楽や料理やさまざまなワークショップも開催されていて
ごちゃまぜな人種の人たちがお互いの文化やルーツをリスペクトしながら、
溶け込む場となっているのだそう。
そんな記事をふと目にしました。
そこには境界線はなく、わたしたちの間を隔てている壁を
「溶かす」場となっているというのが
私の望む生き方に近いと感じました。
なぜなら、私もマイノリティの一人として、周りとの間に少なからずの壁を感じてきたり、
感じたことがあり、それを溶かす、努力をしてきたからです。

私は耳の聞こえない日本人です。
トゥールーズには、長く住んでいる耳の聞こえない日本人は私一人です。
そんな私が耳の聞こえるフランス人の旦那と、
耳の聞こえる、日本人でありフランス人でもある我が子たちと、
耳の聞こえるフランス人たちや、
耳の聞こえないフランス人たち、
それから耳の聞こえる日本人の保護者たち、
他のルーツの人たち、
彼らとどのように普段コミュニケーションをとっているのか、
どんなふうに日々を過ごしているのか、
どんなふうに「境界線を溶かす」努力をしているのか
そんなことをポツポツブログに綴っていこうと思います。

フランス人のマダムたちに書道アトリエ開催

金曜日の夜、トゥールーズのろう協会の建物を借りて、
書道アトリエを開催しました。
参加者は、フランス人の耳の聞こえないマダムたち。
年齢は、40代から70代くらいでしょうか。

息子たちを日本語補習授業校に通わせているので、
書道の授業の時に、先生のアシスタントとして、お手伝いさせていただいたことはありましたが、自分で企画をしてアトリエを開いたのは初めてでした。

手前味噌なんですが、私は書道が得意です。笑
5歳の頃から始めて高校卒業まで地域の書道教室に通い、賞を何度か受賞したこともあります。高校卒業と共に、大学入学のため東京に引っ越したので、途中でやめてしまいました。

手はじめに、日本語の簡単な説明、
それぞれの書道用具の名前をローマ字で黒板に書きます。
それぞれの受講生たちに、自己紹介をしてもらいました。

昔中国を何度か旅行して、現地で書道を習ったという熟年マダムは、大切に保管してあった自分の筆を持ってきて見せてくださいました。

私の持ってきた半紙を珍しそうに眺め、「これは米から作られているのか」
「触った感触が面白い」
墨汁の匂いを嗅ぎ、「これは腐っているのではないか」
「墨汁や半紙はどこで買えるのか」
などなど受講生の反応が面白い。

受講生たちのフランス人名を日本語のカタカナに変えてあげると
みんなの目がキラキラと輝きました!!

横書き、縦書き、止める、はねる、など基本の筆の動きを掴んでもらった後に、
それぞれの好きな言葉を選んでもらって、お手本を書いてあげました。
フランス人マダムたち、カタカナか漢字かもかなり考えて、言葉を選んでました。

マダムG 「水」
マダムF 「竜」
マダムL 「生命の木」

マダムA 「心強く」

最後には記念写真をパチリ。

La Grande Lessive は今年もやってきた。秋風にたなびく子どもたちのアートプロジェクト

夕方から夜にかけ、学校近くの図書館の裏の公園で、学校主催のアートプロジェクトが開催されました。この展覧会では、資金調達のためのケーキバザーも実施されたので、朝パウンドケーキを焼いて次男の担任の先生に渡してきました。

アイシングがサラサラすぎたー!!
でも先生「あらまあどうもありがとう!!」と喜んでくださいました。

子供たちは学童に行っていましたが、夕方あたりに壁の修理の業者が予定時間より遅れてきて(フランスあるある)、お迎えのタイミングがずれてしまい夫に代行を依頼。修理の業者が仕事を終えて帰った後、私も急いで図書館裏のスクエアへ向かいます。

 

このアートプロジェクトは「la grande lessive (たくさんの洗濯物)」という市民参加型アートプロジェクトで、世界118カ国の国の地域や学校などで、10月20日に一斉に同じテーマをもとにして開催されているのだそうです。マップを見ると日本でも東京国際フランス学園で実施されたようです。


木と木の間に張られたロープに、子供たちの描いたデッサンの紙が洗濯バサミで挟んで干され、まるでTシャツのようにヒラヒラと揺れています。去年も参加しましたが、今年は「私の夢の色」をテーマに、幼稚園年少から小学校の最終学年までの子どもたちの色とりどりの作品が、紅葉が始まった木々の間で鮮やかに映えていました。

こんな絵を発見 ! 私の夢は日本に行くこと。この子の夢が叶いますように。

展覧会は我が子たちの絵の鑑賞だけでなく、保護者同士の交流の場!
1年前は、長男も次男もそれぞれ小学校・幼稚園に入園入学したばかり、そしてみんながマスク装着しながらの鑑賞だったけれど、今年はマスク姿はなく子どもたちも2年目なので、知り合いの保護者が増えていて気楽でした。

私に会うと、ママ友だけでなく、パパ友までもが、みずからスマホを取り出し、音声認識アプリケーションを起動して話をしてくれるようにもなり、そういった変化が嬉しい。

我が子たちの成長と共に、お父さんやお母さんたちともより良い関係を築いて行きたいです。
間もなくスタートする秋休みと、話題沸騰のガソリン問題がここでも話題の中心にのぼりました。

ゴミを出さないおやつ(Un goûter sans déchet)の一週間


10月10日から14日までの週は、息子たちが通う小学校や幼稚園で、「Un gôuter sans déchet - ゴミなしのおやつ-」という啓発活動がありました。開始前の週の金曜日に迎えに行くと、学校の校門に大きな模造紙が曜日ごとに色分けして貼られていました。

小学校の校門前に掲げられた大きな模造紙、曜日ごとの廃棄物がわかる。

これはエコロジー推進週間ですね。フランスの学校の授業は幼稚園も小学校も通常16時までで、その後は、ALAEというフランス版学童が18時半まであるのですが、そこに行かせるときには、朝、子供達におやつを持たせます。

この週は市販の個別に包装されたお菓子や、フランスのおやつの定番、チューブ入りのコンポート(リンゴなどの果物を煮たもの)などではなく、できるだけ、包装紙を外したものや、家庭で手作りのお菓子やケーキなどを持たせることが推奨されます。校門にはそんな親たちを手助けするためのいろんなお菓子やケーキなどのレシピが貼り付けられていました。

前の週の金曜日に貼られたお菓子のレシピも日を追うごとに増えて行きました。

夏に日本に帰国したときに子供たちのお弁当箱を新調したので、中の仕切りや小さい箱があるのが助かりました。(前のはなかったので、アルミなどで仕切りを作っていました)毎日手作りのお菓子を持たせるのはめんどくさいなぁという気持ちもあるのですが、毎日頑張って手作りのお弁当作っているお母さん方のことを思えば、こんなの造作ないですよね。
そして、手作りおやつは子供たちにはやはり好評なのでエコロジー週間が終わっても、時々作ってあげたいものです。

月曜日と火曜日

そして木曜日


月曜日からのゴミの推移が一目瞭然です。ちょっと工夫をすればゴミの数は減らせるので、啓発週間が終わっても、減らすことを意識していきたいものです。


夜間にガソリンを求めてセルフスタンドへ

10月に入り、コロナ禍、戦争、ときたら今度はガソリン不足??
と嘆きたくなるような事態が続いています。
8、9日の週末あたりから、ガソリンスタンドには長蛇の列が見られるようになり、もう少し落ち着いてからでもいいかと思っていたら、11日は日中でもセルフのスタンドを持っている近所のスーパーの駐車場を大きくまたぐように、二つの方面からの長い車列ができている信じられない光景を目撃し唖然としました!


水曜日は遠方まで車で行く予定があるのですが、満タンにして行きたくても、スタンド前の長い車列を覚悟していかねばならないのでとりあえず諦め、帰りは出先の近くで入れて帰ろうとしたら、そこも信じられないくらいの車列ができていたので、寄り道をしないで帰りました。
気のせいか、いつもよりも周りの車のスピードがゆっくりです。高速を出て我が街に戻ってきた瞬間、ついガッツポーズが!
何の問題もなく、無事に帰れて本当によかった。ガソリン補給が即座にできないかもしれないということがこれほど不安にさせるとは。

近所のスーパーは、長い車列が一般のお客さんの迷惑になると判断したのでしょう。
夜にセルフスタンドに行こうとしたら、
「夜間20時から早朝7時のみセルフスタンドを営業。30ユーロの上限付きの給油を」との張り紙がしてありました。

その夜子供たちを寝かしつけた後、長期戦を覚悟し、
時間潰しになる本と、飲み物、少し食べ物もバックに入れて、スタンドを目指すことに。夜の22時近く。そんな時間にガソリンを求めて車で向かっている自分が少し滑稽で。

広い駐車場の端っこまで車列ができていましたが、30ユーロの上限があるせいか、思っていた以上に回転率がスムーズで、15分ほどで、スタンド内のポンプがある付近まで進むことができました。

あら、思っていたより早かったじゃないの。
でもここで安心していられないのがフランス。ようやく自分の番になった時、セルフの機械をチェックしたら自分のガソリンが完売していた・・・なんてことがあるんじゃないのかと、給油が終わり、支払いが終わるまでは気が気でありません。


運よく、ちゃんとハイオクは残っており、30ユーロ分給油し、ひとまず安心。
早朝また向かうと、ガラガラでした。残りの6リッター分を給油し、なんとか満タンに。
私の給油所では1リットル1,689ユーロ(241円)でした。
ガソリンを満たし私の心もようやく満たされ・・。

このガソリン不足はトータルエネルギー社、エッソ社の社員による賃金引き上げを求めるストライキが発端ですが、これが長引くといろんな足に影響が出てきそうです。
もうすぐ始まる秋休みの遠出にも影響が出てきそうだし、
遠方まで通っている子供たちの習い事も、通えない家族が出てくることが予測されるため、オンライン授業になる可能性も出てきています。
満タンにして少し安心ですが、今後の展開が見えないため、できるだけ足を自転車に変えて、必要以上に車に手をつけずにしておいた方がよさそうです。

Il suffira d'une langue des signes français : フランス手話だけで十分だろう

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スーパーの店頭に並べられた ボジョレーヌーヴォー

土曜日。午後から、市内中心部にある、ろう者が経営している児童書店「L'Oui -Lire」が企画した、フランス手話の読み聞かせのイベントに次男を連れて出かけました。

 

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今月は「Rencontres Ville & handicap (都市と障害者のサミット)」という月間で、11月15日から28日まで様々な啓発活動がいろんな場所で展開されており、絵本の手話での読み聞かせもその一環でした。

https://www.toulouse.fr/web/social/handicap-et-accessibilite/rencontres-ville-handicap

またProjection transition féstival de ciné -debatが主催した映画の上映、パネルディスカッションのイベントが地元の映画館で実施され、友達が映画上映後のパネルディスカッションに出席し、手話通訳もつくということで、次男を旦那に預け、行ってきました。

 

projectiontransition.fr

 宮崎駿のアニメ「もののけ姫」上映後、地球化学者の友人を含めた3人の専門家が、映画に込められたメッセージを受けて、人間と自然の関係性をどう考え直すかについて討論しあうというものでした。


討論会の後、長男はクラスメートの女の子マチルダちゃん(仮名)の誕生日会に招待されて行っていたので、先に次男を連れて旦那に行ってもらい、私も現地で合流しました。子供達が遊んでいる傍で、フランス人の親たちは庭で、グラスワインやおつまみを手に、おしゃべり。

目前に恰幅の良いフランス人男性が現れました。誕生日会の家の主人、マチルダちゃんのお父さんです。言葉を交わしたことはありませんでしたが、マチルダちゃんの妹と次男が幼稚園で同じクラスで、毎朝送っていく時によく見かけていました。簡単な自己紹介の後、

そのお父さん、
「実は僕はね、20年くらい前に、シアターでろう者と仕事をしていたんだよ。だから、その時にフランス手話を勉強していたんだ。でもしばらく使わないでいるうちに、時間の流れとともに手話を忘れていってしまった。君と出会ったから、もう一度手話を勉強しなおさければね。」
「へぇ、そうなんですか!それは嬉しい!シアターはトゥールーズの?」

「いやパリだ。しばらくパリに暮らしていたんだけど今の妻と出会い、トゥールーズには

2016年に引っ越してきた。」

「パリといえば、IVT: International visuel theatre (国際視覚劇場: フランス唯一のろう者のための劇場、手話をはじめとする各種養成講座や手話に関する書籍やDVD販売、公演や講演会など積極的な啓発活動を行なっている。)がありますよね!」


「ああ知っている。勤めていたのは別の劇場だ。・・・手話は美しい言語だと思う。美しいね。ろう者たちは表現力が巧みで、視覚に優れ、出会うとすぐに、その人の特徴を捉えたサインネームを上手に作っていくよね。」

少し忘れてしまったというフランス手話は途切れ途切れではありましたが、ろう者と交流し演劇の経験があるせいか見事なまでのジェスチャーと、明快な口の動き。
いつしか他のフランス人のパパやママたちまでが話の輪に入ってきて、私や夫の紹介も混ぜながらぐんぐん周囲を巻き込んでいく。お酒が進むとともに話が展開していき、みんなで手話を学ぶ会をやろうということに。「タイトルは、こうしよう。「Il suffira d'une langue des signes français : フランス手話だけで十分だろう」、これでどうだ」

めっちゃいい、このネーミング。
めっちゃいい、この陽気さ、快活さ。朗らかさ。

おそらくこれから長い付き合いになるであろうこのお父さんと一緒になって、うまく周囲を巻き込んで、少しずつ始めていこう。

楽しくて笑いが止まらず、グラスワインをお代わりして、運ばれてきたおつまみ、北フランスを代表するチーズを使ったタルト・オー・マロワールを口に頬張り、感激の美味しさだったので、レシピを教えてもらい、ほろ酔い気分になりながら、静かに夜は更けていくのでした。

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