南西フランスからボンジュール 

耳の聞こえないルシル塚本夏子が、聞こえる世界と聞こえない世界の境界線を溶かす挑戦をつづります。

Il suffira d'une langue des signes français : フランス手話だけで十分だろう

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スーパーの店頭に並べられた ボジョレーヌーヴォー

土曜日。午後から、市内中心部にある、ろう者が経営している児童書店「L'Oui -Lire」が企画した、フランス手話の読み聞かせのイベントに次男を連れて出かけました。

 

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今月は「Rencontres Ville & handicap (都市と障害者のサミット)」という月間で、11月15日から28日まで様々な啓発活動がいろんな場所で展開されており、絵本の手話での読み聞かせもその一環でした。

https://www.toulouse.fr/web/social/handicap-et-accessibilite/rencontres-ville-handicap

またProjection transition féstival de ciné -debatが主催した映画の上映、パネルディスカッションのイベントが地元の映画館で実施され、友達が映画上映後のパネルディスカッションに出席し、手話通訳もつくということで、次男を旦那に預け、行ってきました。

 

projectiontransition.fr

 宮崎駿のアニメ「もののけ姫」上映後、地球化学者の友人を含めた3人の専門家が、映画に込められたメッセージを受けて、人間と自然の関係性をどう考え直すかについて討論しあうというものでした。


討論会の後、長男はクラスメートの女の子マチルダちゃん(仮名)の誕生日会に招待されて行っていたので、先に次男を連れて旦那に行ってもらい、私も現地で合流しました。子供達が遊んでいる傍で、フランス人の親たちは庭で、グラスワインやおつまみを手に、おしゃべり。

目前に恰幅の良いフランス人男性が現れました。誕生日会の家の主人、マチルダちゃんのお父さんです。言葉を交わしたことはありませんでしたが、マチルダちゃんの妹と次男が幼稚園で同じクラスで、毎朝送っていく時によく見かけていました。簡単な自己紹介の後、

そのお父さん、
「実は僕はね、20年くらい前に、シアターでろう者と仕事をしていたんだよ。だから、その時にフランス手話を勉強していたんだ。でもしばらく使わないでいるうちに、時間の流れとともに手話を忘れていってしまった。君と出会ったから、もう一度手話を勉強しなおさければね。」
「へぇ、そうなんですか!それは嬉しい!シアターはトゥールーズの?」

「いやパリだ。しばらくパリに暮らしていたんだけど今の妻と出会い、トゥールーズには

2016年に引っ越してきた。」

「パリといえば、IVT: International visuel theatre (国際視覚劇場: フランス唯一のろう者のための劇場、手話をはじめとする各種養成講座や手話に関する書籍やDVD販売、公演や講演会など積極的な啓発活動を行なっている。)がありますよね!」


「ああ知っている。勤めていたのは別の劇場だ。・・・手話は美しい言語だと思う。美しいね。ろう者たちは表現力が巧みで、視覚に優れ、出会うとすぐに、その人の特徴を捉えたサインネームを上手に作っていくよね。」

少し忘れてしまったというフランス手話は途切れ途切れではありましたが、ろう者と交流し演劇の経験があるせいか見事なまでのジェスチャーと、明快な口の動き。
いつしか他のフランス人のパパやママたちまでが話の輪に入ってきて、私や夫の紹介も混ぜながらぐんぐん周囲を巻き込んでいく。お酒が進むとともに話が展開していき、みんなで手話を学ぶ会をやろうということに。「タイトルは、こうしよう。「Il suffira d'une langue des signes français : フランス手話だけで十分だろう」、これでどうだ」

めっちゃいい、このネーミング。
めっちゃいい、この陽気さ、快活さ。朗らかさ。

おそらくこれから長い付き合いになるであろうこのお父さんと一緒になって、うまく周囲を巻き込んで、少しずつ始めていこう。

楽しくて笑いが止まらず、グラスワインをお代わりして、運ばれてきたおつまみ、北フランスを代表するチーズを使ったタルト・オー・マロワールを口に頬張り、感激の美味しさだったので、レシピを教えてもらい、ほろ酔い気分になりながら、静かに夜は更けていくのでした。

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